植物の根と昆虫のMRI

植物の根と昆虫のMRI

目次

1.植物の根の水輸送を拡散MRIで見る

2.昆虫のMRI

1.植物の根の水輸送を拡散MRIで見る

MRIの分解能(解像度)はかなり高くなってきています。2001年にJMR(Journal Magnetic Resonance)にゼラニウムの葉の茎を1μmで撮像したと報告されています。14.1T(600MHz)の装置と1000gauss/cmの傾斜磁場コイルで実現したことが報告されています。植物は比較的静的な状態で計測ができるため高分解能画像が期待できます。

植物の動的な状態、つまり養分を根から吸い上げて葉や実に輸送する過程の研究に利用できること、近年水の輸送に関連する水チャンネルであるアクアポリンタンパク質が発見され、これらの輸送に関連することなどが研究されています(桑形2022 生物と気象)。この水輸送や水透過性をMRIによる研究が注目されています。

特に根には多くのアクアポリンの発現もあり、2002年にAnnals of Botanyに掲載された論文”The Role of Aquaporins in Root Water Uptake.”は多く引用されています。最近では2022年にPlant Rootに掲載されたWatanabe先生の論文”Root sampling method for aquaporin gene expression analysis in rice.“も注目されています。

植物の根から葉までの水輸送につて様々な方法で研究が進められてきました。近年水チャンネルのアクアポリンの研究の進展もあり、その動態がさらに議論されています。

こうした水動態を把握する方法として水の拡散係数計測も注目されており、2024年Cellに掲載された論文”Real-Time Dynamics of Water Transport in the Roots of Intact Maize Plants in Response to Water Stress: The Role of Aquaporins and the Contribution of Different Water Transport Pathways.”で利用されています。この報告ではNMRコイルの範囲にあるとうもろこしの根の拡散係数を計測して軸方向、および軸に垂直なラジアル方向の拡散から、アポプラスチック水輸送について議論しています。この論文ではMRIは解像の低さが問題であることを指摘しています。

ここでは4.7T(200MHz)のMRIで計測されたひまわりの種から芽吹いた根のT2および拡散係数(ADC)について紹介します。測定コイルは1cmのサーフェスコイルです。軸方向は0.5mmスライスですが、平面分解能は訳69μmです。

T2画像は4つのTEのT2W-MRIから計算されています。

以下は拡散係数画像(ADC)です。根の発芽の段階でADCが異なり、先端ではADCは小さく、成長部分ではADCが大きくなっています。また、軸方向にはADCは大きく、軸と垂直な方向では、中心の木部でADCが小さくなっているのが確認されています。(2024年農芸化学会大会で発表)

また、Simon Mayerらは、CEST技術を利用して種子(豆)の中糖分布を画像化することを提案しています(Sci Adv. 2024 )。グルコースCESTは脳のグルコース濃度分布を間接的に求める方法としてヒトや動物にりようされていますが、光合成をする植物で作られる糖の動態を調べるのに有望です。CESTはchemical exchange saturation transferの略で縦緩和に寄与する化学交換する原子を飽和させて水の信号強度を変化させ、その変化量から化合物の濃度を探るもので、詳細はElena Vinogradov らの論文(J Magn Reson 2012)が参考になるかもしれません。またglucose CESTについては腫瘍の評価の論文(Michal Rivlin, Quant Imaging Med Surg. 2019)などがあります。

2.昆虫のMRI

昆虫も比較的初期のMRI研究の対象でした。昆虫のMRIの研究動向についてはJ Insect Sci. 2003のreviewによくまとめられています。このreviewの中ではMRIで蛾の宿主の消化器系、神経系、気管系が同定され、宿主が変容するにつれて変化が観察された。寄生体による宿主組織の破壊が観測された報告などが挙げられています(Chudek JA, Magnetic Resonance Imaging. 1996)。

Mn2+は神経のCa2+のチャンネルを通り神経細胞に入ることがわかっています。これを利用して神経活動の染色画像を撮る技術があります(MEMRI:Maganese Enhanced MRI)。これを用いて、スフィンクス蛾の神経活動を記録した論文が報告されています(Takashi Watanabe, J Neurosci Methods 2006)

また、Saturnia pavonia(オオヤママユガ)の蛹を対象とした研究では、変態の最終段階における生体機能と組織再構成の動的モニタリングに成功しています(Tim Laussmann, Scientific Reports 2022)

以前テレビ番組でも東海大学の黒田先生のカブトムシのMRIが取り上げられたようです。(東海大のリンク1, 東海大のリンク2)