31P-MRSはATPやクレアチニンリン酸(PCr)、無機リン酸(Pi)などの高エネルギー代謝物質と関連代謝物、およびリン脂質の前駆体(ホスホモノエステル;PME)および分解物(ホスホジエステイル;PDE)などが観測できます。特にPiはそのシフトがpH依存性をもつことから細胞内のpHを示すパラメータとして利用可能です。また細胞内pHの維持は細胞の恒常性を示すパラメータの一つと考えられます。細胞外液は通常pH7.4ですが、正常な細胞内pHは7.0付近です。しかし、頭部外傷や新生児ではpHが7.0を超える例があり、これらは様々な代謝障害や細胞膜の機能障害などが関係しているのかもしれません。
(頭部外傷: M Rango, Annals of Neurolog 1990 , MG stovell J Cereb Blood Flow Metab 2018, 新生児: NJ Robertson Pediatric Research 1999, )
運動中の骨格筋代謝を31P-MRSで追跡した。測定条件TR=2s, 32回積算、大腿四頭筋を非選択(直径8cm surface coil利用) で計測した連続スペクトル。1.5Tで計測。
好気的条件下の運動による変化。好気的条件かではPCrの減少、無機リン酸の上昇が認められるが、ATPの減少、pHの低下は認められなかった。

嫌気的条件下で計測した31P-MRS。測定条件TR=2s, 32回積算、大腿四頭筋を非選択(直径8cm surface coil利用) で計測した連続スペクトル。下腿鼠蹊部に駆血帯を巻いて駆血した。
運動中にPCrの著しい低下と無機リン酸の上昇、無機リン酸の高磁場側へのシフトを認めた。無機リン酸のシフトから計算されるpHを右側に付ける。

筋を虚血にしながら一時的に運動すると、無菌リン酸がシフトしない筋群とシフトする筋群がありました。下の図の左はシフトを生じない例、右はシフトを生じた例です。このpHの変化の違いは筋線維タイプに依存するのかもしれません。筋線維タイプに依存するのであれば、1H-MRSのカルノシン信号などで調べることになります。カルノシンは7ppmと8ppmにピークを持ちますが、筋生検の分析からタイプII線維タイプはタイプI線維タイプの2倍のカルノシンがあることが報告(RC Harris, J Sports Scie, 1998)されています。
